間づくり研究所

2024.12.25

間づくり研究会リポート~工場の間づくり研究成果報告会~

9月24日~27日の4日間ににかけて、コマニーが主催するオンラインイベント「COMANY SDGsWEEK 2024」を開催しました。今年は「幸福に働く個と組織」というテーマで、幸福に働くための考え方についてのインプットや、社内の取り組みの紹介を行いました。そのプログラムの1つとして、「間づくり研究会 工場の間づくり研究成果報告会~幸福な工場を目指して走った1年間~」と題し、コマニーの工場で行ってきた間づくり研究の成果を発表しました。

▶「工場の間づくり研究成果報告会」のアーカイブ映像はこちら
https://youtu.be/CHB31eqQZZs

「工場の間づくり研究」とは?

工場の間づくり研究を始めたきっかけは、「工場で働くメンバーは、働いて幸福になるということを諦めている」という声を聞いたのがきっかけでした。世の中的にも「工場勤務」と聞くと、労働環境が悪い、力仕事が多いといったイメージをもたれていますが、もちろん工場のメンバーにも幸福に働く権利があります。このような状況をどうにかしたい、工場のイメージを覆したいという切実な想いが、工場の間づくり研究の始まりでした。

研究を始める前に実施したのが、製造部門の全メンバー総勢300人で行った「間づくり研修」です。普段働いている中で感じる良いことや変えたいことを、付箋に書き出して共有しました。その上で、「最高の工場とはどのようなものか?」ということについて考えました。

そして見えてきた課題の中から、5つの研究テーマを設定しました。

工場のメンバーに向けて研究員を募集したところ、なんと50名以上の手が挙がりました。今までは諦めの雰囲気が漂っていた工場が、「自分たちの手で最高の工場をつくって、皆で幸福に働きたい!」そんな想いで溢れていました。

手を挙げた全員を9つのチームに分け、約1年間研究活動をしてきました。

各チームの研究成果報告

今回の報告会では、50名の研究員を代表して、3つのテーマの研究成果を発表しました。

研究テーマA:工場における心理的安全性とリーダーシップの研究

テーマAでは「心理的安全性」に着目した研究を行いました。心理的安全性とは何かを定義したうえでアンケートを実施し、工場内の現状を調査しました。

A-1チームリーダー 海道さんと、A-2チームリーダー 坂下さん

A-2チームは、まずは心理的安全性について学ぶために、様々な文献を読むところからスタートしました。その中で、「心理的安全性とは、組織や集団の中で、自分の意見や考えを安心して表現できる状態のこと」という風に定義しました。

心理的安全性が守られていない人は、「無知 無能 邪魔 否定」というような不安を抱えています。そしてその不安を払拭するために、良いことは強調し、欠点や悪いことは隠す行動習慣があると言われています。 このような人は、有能な人と思われたいという「強がりの仮面」や、いい人に思われたいという「いい人の仮面」をかぶっています。つまり、自分を守るための仮面を外し、本音でより良い組織を共創できるチームが「心理的安全性の高いチーム」だと言えます。

定義付けを行った後、工場における「上司、部下」に着目し、心理的安全性についてのアンケートを実施しました。

この結果をさらに分析したところ、部下から上司に向けて「打ち合わせばかりで相談する機会がない」「相談したら怒られそう」「聞き入れてくれない」というような意識をもっていることが分かりました。

この結果を受け、「上司、部下の相互理解を育むためのポイント」をまとめました。

上司と部下の関係性は、仕事の質にも大きく影響します。お互いを尊重しながら、本音でより良い組織を共創できるチームを実現できるよう、意識していきましょう。

A-1チームでは、工場の心理的安全性についてさらに深堀りするために、工場メンバーがどのようなモチベーションで働いているのかを、全3回のアンケートで調査しました。

1つ目のアンケート(対象:製造部の従業員 回答数:204件)

「あなたは仕事に対してどのくらい意欲がありますか?」という問いについて、「少しはある」「すごくある」という回答が合わせて80.8%ありました。工場全体で、意欲があるメンバーが非常に多いということが分かりました。

しかし「ズバリ、出世したい!!という気持ちはありますか?」という問いについては、「全くない」「あまりない」が67.1%という結果になりました。

「出世したくない」と回答した方の理由としては、拘束時間が長い、魅力がない、仕事量が多い などが挙げられました。このことから、「上司の姿を見て、出世意欲が下がっているのではないか」と考察し、次は責任者の現状について調査することにしました。

2つ目のアンケート(対象:製造部の部長・課長 回答数:23件)

「責任者が抱える仕事量は適量だと感じますか?」という問いについては、79%の方が「多少過負荷である」「キャパオーバーに近い」という回答となりました。
理由としては、仕事量が多く現場を見に行ったりコミュニケーションを取ったりすることが困難、メンバーとの面談の時間が削られている、などの意見がありました。その一方、「そもそも管理職は常にキャパオーバーなものだと考えている」という声もありました。
責任者の負担を減らすためには、実際に現場で各製造ラインを動かす「ライン長」とのコミュニケーションや業務バランスが重要だと考え、ライン長の現状についても調査することにしました。

3つ目のアンケート(対象:製造部のライン長 回答数:25件)

ライン長は、工場メンバーと同じく製造ラインに入って業務を行い、それ以外の時間で日報の入力や実績確認、次の日に向けた準備などの業務を行っています。

アンケートの結果、それら全ての業務を定時内に終わらせようとした場合、「1日平均150分不足」していることが分かりました。つまり、「定時内で終わる仕事量に設定されていない」ということです。

このアンケートをきっかけに、新たな動きが生まれました。 上司の負荷状況を知ったメンバーが、「自分たちに分散できる業務があるのではないか?」「アンケート結果を公開して、それぞれの職場でどのように助け合えるのかを考えたらどうだろう?」という声が上がってきたのです。

そこでアンケート結果と合わせて、「ライン長と課長の負荷を軽減させる発信」を行いました。負荷を軽減させることで、メンバーとのコミュニケーションの機会が増え、お互いの心理的安全性が高まります。それだけでなく、メンバーに業務を分散させることにより、スキルアップや次世代育成にも繋がります。 この発信を行った後、実際に報告書の作成や棚卸の確認などを工場メンバーに分散し、負荷が軽減したという声が届いています。

この研究を通して、「みんなで工場を良くしていこう」という動きの第一歩を踏み出すことができました。

研究テーマB:工場のコミュニケーション機会・時間

テーマBでは「コミュニケーション」に着目した研究を行いました。工場といえば黙々と作業をしているイメージがありますが、幸福に働くためには、仲間とのコミュニケーションや関係性がとても重要です。新たなイベントや空間を生み出すことにより、コミュニケーション機会の改善に取り組みました。

Bチームリーダー 長野さん

まず「コミュニケーション」について現状を知るために、工場のメンバーにアンケートを実施しました。その結果「コミュニケーションが不足してイライラ・ギスギスしている」「部門間の情報伝達が難しい」といった意見が上がってきました。それに対しチームで深堀りを行い、「生産が優先になってしまいコミュニケーションの時間が取れていないのでは?」「集まるためのスペースがないのでは?」などの洞察を行いました。

そして「他部門を知る機会や、部門を超えた横の繋がりを作りたい」という結論にたどり着き、2つのテーマを設定して活動を進めることにしました。

業務の前後工程メンバーとの親睦を深める「スポーツ大会」を企画

コマニーでは社員の親睦を深めるために「スポーツ大会」が毎年行われており、これまでは部や課ごとで開催していました。しかし今年は、業務の前後工程で関わる部門と合同で開催し、コミュニケーションを強化できるように企画しました。業務以外の時間でコミュニケーションを取ることで、相手についてより深く知ることができ、今まで以上に仕事にも良い影響を与えるという企画です。
対象者は製造部門 約280名で行いました。

間づくりの「ひと手間」という部分にも力を入れました。ただ案内をするだけではなく、チラシを作って手渡しで宣伝することにより、企画への想いを伝えながら、多くの方に来ていただけるよう声掛けを行いました。

スポーツ大会の様子。大会後にご飯会を企画したチームもありました。

参加者の声
・普段の業務であまり関わりがない方と会話ができ、とても仲良くなりました。
・仕事の話からプライベートの話まででき、良いコミュニケーションの場でとても楽しかったです。
・日頃から業務でも連携が取れていますが、業務外でもコミュニケーションを取れたことでさらに相手を知ることができ、今後の業務でも良い連携が取れそうです。
・お互いの業務の話や仕事の困りごとなど、相談したいのにできなかったことが話せてよかったです。

工場に、コミュニケーションがとれる「休憩所」を設置

今回の展示では、お客様自身の考えの集約で研究結果を得られるよう、能動的に体験いただくための仕掛けとして2つの問いを用意しました。

まず初めに、チームメンバーから色々な案やデザインを出してもらい、それをベースに作っていくことにしました。

空間の面ではリラックスできる環境にするために、どのような配色が良いか、どのような什器と配置が良いか、コーヒーメーカーを配置してはどうかなどを議論しました。
コミュニケーションの面では、コーヒーは2人以上で来ることで購入できる、他部署の方と来ることで購入できるなど、コミュニケーションの機会を提供することも忘れずに議論しました。

また自社製品を使用することで、他の製造工場にはないコマニーならではの休憩所を制作する方向で考えています。工場見学に来られたお客様にも、おもてなしをしながら営業ツールとしても活用できるようなスペースを目指しています。

この研究で、お互いが意識してコミュニケーションを取ることで、信頼関係の向上や情報共有の円滑化、ストレス解消やチームワークの強化に繋がることが改めて分かりました。
引き続き、1人1人が自然とコミュニケーションが取れる工場を目指して活動していきます。

研究テーマC:工場における​人に優しい空間づくり

テーマCでは「人に優しい空間」に着目した研究を行いました。
工場勤務と聞くと、衛生面や力仕事などあまり良いイメージを持てない方も多いかと思います。人に優しい作業空間とはどのようなものかを、様々な視点から調査しました。

C-2チームリーダー 橋本さん

工場メンバーに聞き込みを行い、上記のような内容で困っているということが分かりました。これらの問題点については関連部門と連携をとり、それぞれ対策を行いました。
そしてC-2チームとしては、騒音についてさらに改善を進めることにしました。

工場の30カ所で騒音調査を行った結果、「41ライン」という場所にある、石膏ボードを水で切断する設備が最も音が大きいことが分かりました。

このラインでは120dBを超える数値が計測されました。これは、飛行機のエンジン音や近くで落雷が落ちた時と同じ音量だと言われています。近くに作業場はなく常に人がいる場所ではないものの、周辺の別のラインにも大きな影響が出ていることが分かりました。

さらに観察を進めていくと、高圧水を噴射した際に発生する衝撃音が、機械の中にある水槽で反響してさらに大きな音になっていることが分かりました。様々な対策を打ち試行錯誤していく中で、水槽内に「ジャマ板」というものを取り付けて反響を低減させたところ、90dB近くまで音量を下げることができました。

研究を通して「工場が静かになり、​作業中の会話も聞きやすくなった」など喜びの声が届いています。また、業務内容が異なるチームメンバーが集まったことにより、各々の知識を出しあって活動を進められたことで、大きな改善に繋げられたと思います。

工場の間づくりメンバーによる座談会

最後に、間づくり研究所 所長の塚本直之さんと、発表していただいた工場の間づくりメンバーで座談会を行いました。

間づくり研究が始まった時の高揚感や、活動する中で起きた葛藤、チームメンバーの想いなど、長期間にわたって現場を見てきた皆さんが感じたことを熱く語っていただきました。座談会の様子は、ぜひアーカイブ映像でご覧ください。

▶「工場の間づくり研究成果報告会」のアーカイブ映像はこちら
https://youtu.be/CHB31eqQZZs

まとめ

研究を進めていく中で、工場メンバー1人1人が「本当に工場を変えたい!」「こんな工場になってほしい!」という強い思いを持っていることが分かりました。
全員が当事者となって間づくりを進めていくことで、1人1人が幸福に働くことができる工場の実現を目指し、引き続き研究を進めてまいります。