間づくり研究所

2023.11.09

石川善樹氏:対談【後編】~間仕切りメーカーから、間作りカンパニーへ。私たちが目指すウェルビーイング~

間づくり研究所の所長である塚本直之が、ウェルビーイングを研究する予防医学研究者である石川善樹さんと「間」をテーマに対談を行いました。

対談者プロフィール
  • 石川善樹

    予防医学研究者、博士(医学)

    石川善樹

    Yoshiki Ishikawa

    1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。近著は、フルライフ(NewsPicks Publishing)、考え続ける力(ちくま新書)など。

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    間づくり研究所 所長

    塚本直之

    Naoyuki Tsukamoto

    COMANYが目指す 「関わるすべての人の幸福に貢献する経営」 を実現するた め、同社の経営にSDGsを実装したサステナビリティ経営を推進。 現在は、間 づくり研究所の所長として間づくりの浸透を推進している。 趣味はロードバイ クで、休日は山に向かって走るのが何よりの楽しみ。 最近は畑も始めた。

これからのウェルビーイングに繋がるオフィス作りとは?

塚本:人々がもっと幸せに働ける環境をつくることが、より多くの人の幸せに繋がるのではと漠然と考えています。例えば働く人に子供がいて、その人自身が幸せであれば家族や子供に対しても良いマインドで接することが出来るように、よい影響が連鎖していくような気がしていて。 実際は多忙な生活や日々のプレッシャーの中で、のびのびと生活できている人は少ないと思いますが、そういう人たちがよりウェルビーイングに働くには、今後どういった間づくりができると思いますか?

石川:逃げる場所や他の選択肢があることは、結構重要だと思います。実は他の年代と比較したときにウェルビーイングが圧倒的に低いのは、20〜30代の女性です。若年女性のウェルビーイングは、企業や地方自治体にとっても最重要課題です。例えば豊島区は公園の汚いトイレが原因で、子供を公園で遊ばせたくないというお母さんたちの声をもとに、町の化粧室を大改修しました。働く人をターゲットにするのであれば、優先順位でいくと若い女性が働きやすいかどうかが重要だと思います。どうせマジョリティの親父たちは、我が物顔で気持ちよく働いてるんだから。

塚本:最近ダイバーシティーインクルージョンという言葉でも叫ばれていますが、結局若い女性の居心地がよい状態を作るためには、男性の意識と行動を変えなければいけませんね。弊社も今女性比率が約19%で、気づかぬうちに男性が基準になってしまっている部分は沢山あると思います。先日子供の学校行事でお母さんたちばかりの中に混ざった時に、居場所がなくて、男性ばかりのオフィスで働く女性の気持ちが少しわかったような気がしました。この状態で同じようにパフォーマンスを出せというのは酷だなと。そういう意味では、男性の意識を変えるためにアプローチすることも必要かもしれませんね。

アクティビティ・ベースト・ワークプレイスの問題点

塚本:以前、石川さんがアクティビティ・ベースト・ワークプレイス (Activity Based Working)の問題について言及されてる記事を拝見しました。流行のフリーアドレスのオフィスの中にカフェなどを作るのはいいけど、集中する場、リラックスする場、交流する場が隣接したところで、人間の脳はそんな簡単には切り替えられないと。どうすれば、生産性の高い間づくりができると思いますか?

石川:今のABWは静的に考えられているので、もっと動的に人の導線を考える必要があると思います。人は絶対設計した通りには動かない。でもだから面白くもあって、もう既に出来上がっている導線を見て「ここがクロスポイントになってるから、間をつくろう」という発想の方がいいんじゃないのかなと。あとは、神社仏閣ににあるようなストーリー構成も必要ですね。

塚本:そう考えると先ほどのお話とも繋がってきますね。最近日本的だなと思ったのが、近所にある神社が仏閣の建築物に年々手を加えつつ、その立派な屋根の先にある大木が成長できるように屋根に大きい穴を開けてあるんです。この地形ならこう作ったほうが良いと設計をしたり、参道を作ったりしていて。元々あった地形やものをどう残すかをまず考えると、基本的に全部なくしてそこに整地していくっていうやり方ではなくなりますよね。

石川:そうですね。まず自然が先にあって、僕らはそこにお邪魔してるだけですよね。虫が出るんじゃなくて、虫がいるとこに僕たちがお邪魔している。むしろ向こうのほうが迷惑がってますよね、なんか人間がいっぱい来たぞと。

塚本:本当にそうですね。

焚き火を超えるウェルビーイング体験を作る

塚本:石川さんは、なぜオフィスや建築のプロジェクトに呼ばれるようになったんですか?

石川:元々建築や空間に興味があって、その中で人の立場で考えられるUXや動線のプロが意外といなかったので声をかけていただけるようになりましたね。建築家の方は、ぱっと視覚優位で判断する人が多いです。例えば汐留にオフィスがあるとしたら、多くの人は朝満員電車に揺られながら新橋駅にたどり着いて、へとへとになってオフィスに着くと思うのですが、その辺りが抜け落ちて、最初からいきなりオフィスにいる想定で設計されていたりとか。あとは単純に、仕事の始まりと終わりを素晴らしいものにするという視点がないことが多い。例えば、出社した時に「今日も頑張ろう」という気持ちになったり、視点をぐっと上げてくれる仕掛けがあったりすると、知的生産性の向上につながります。

塚本:石川さんの今一番の関心事と、やりたいことは何ですか?

石川:焚き火を超えるシンボリックなウェルビーイング体験を作ることですね。焚き火は今のところ、人類がつくった最強のウェルビーイングテクノロジーだと思います。あれほど間として機能するものはないです。なんで誰もたき火に対して悔しいって腹立ってないんだろうと。

塚本:それで満足してしまってますよね。焚き火を構成する要素として、重要だと分析されてる要素はどんなとこですか?

石川:揺らぎです。揺らぎは人を飽きさせないですね。止まるということは言い換えれば予測可能で、人は飽きてしまうと、どこかに行きたくなるんですよね。常に予測できそうでできない変化が、人の興味を引くんですよね。

塚本:確かに。ても、予測できない状態は多くの場合そこにリスクが伴いますよね。石川さんのアイデアから、これからどんなウェルビーイング体験が生まれるのか、楽しみです。この度はありがとうございました。