間づくり研究所

2024.05.28

楢侑子氏:対談【前編】~写真家、楢侑子と共に考えるそれぞれの間づくり~

間づくり研究所のMA-starである塚本健太が、写真心理学を用いた対話プログラム「miit(ミート)」の開発者である楢侑子さんと「間づくり」をテーマに対談を行いました。

対談者プロフィール
  • 楢侑子

    株式会社ナムフォト 代表取締役

    楢侑子

    Yuko Nara

    多摩美術大学で写真を始めて以来、写真家として活動を続ける。第28回写真新世紀入選。またmixi、TOKYO FM、エイベックス・マーケティングなどでメディアの企画や編集に従事する他、新企画立ち上げなどを担当。2010年よりコミュニティデザイナーとして「まちづくり」に関わるように。 写真ワークショップを2000名以上に提供して2万3000枚以上の写真をレビューする中で、写真から撮影者の認知を読み解く「写真心理学」という独自のフレームワークが誕生。2020年12月に研修サービス「miit」をリリース。2022年より大学で心理学を体系的に学び、写真心理学を研究しながら事業を行っている。

  • 健太さん

    間づくり研究所 MA-star

    塚本健太

    Kenta Tsukamoto

    1978年石川県小松市にコマニー株式会社の創業者塚本信吉の孫として生を受け、2019年6月に3代目社長に就任。世の中の「間」違いや「間」が悪いところを「間づくり」していけば、すべての生命が光り輝く世界が実現すると信じてやまない。趣味はサックスとF1観戦、子供とラジコンをして遊ぶこと。

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    間づくり研究所 研究員

    角拓馬

    Takuma Kaku

    入社して製造現場一筋15年。現場の働きやすさを間づくりを通して追及し、製造はメーカーの要という事を使命に取り組むと同時にお客様に良い製品をお届けできるよう心掛けております。休日は野球観戦と子供と遊ぶことがなにより大切な時間です。

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    間づくり研究所 研究員

    齋藤理沙

    Risa Saitou

    2018年入社。製造加工部加工2課に配属され、EUP組立作業から始まり、今ではNC複合機のデータ作成業務を担当。 現在製造部の間づくり研究員として、工場におけるコミュニケーションツールの間づくりをチームメンバーと共に進めています。 最近ハマっている事は、休日に子供とゲームをして遊ぶこと。

写真を通して社会と対峙する

塚本:「間づくり」は聞き慣れない言葉かと思いますが、間という字をご覧になったとき、どんなイメージが湧きますか?

:色のない空間が、目の前に大きく広がっているイメージです。分厚い壁に覆われた牢屋のように、固定されて窮屈な空間はあまり間という感じがしないですね。

塚本:軽やかなイメージですね

:そうですね、風が吹いているような。インタビューのお話をいただいた時、私にとって間を感じる空間を考えてみたんです。公園や、樹齢を重ねた背の高い木々がたくさんある神社、天井が高い吹き抜けの空間、窓がたくさんある部屋。自分らしい場所を探すと、不思議と風通しの良い空間や野外に繋がっていますね。

塚本:写真家としてシャッターを押す際は、どんなことを考えていますか?

:写真を始めた学生時代は「ビビビ!」と心が震えたものを、何も考えずとにかく全て撮っていました。並べてみて良いと感じるものを考察すると、構図として美しいものよりも少し生っぽさやライブ感があるもの、風を感じるものが好きだということがわかりました。当時は街の中の高層ビルや橋、植林された木や公園、スーツの人、車椅子の人など、それぞれの日常が生き生きと収められている写真を好んで撮っていました。こういった経験はmiit(ミート)が生まれるきっかけにもなっています。

塚本:風やライブ感というキーワードを、あえてその対極の写真という表現で定着させたのは面白いですね。僕は音楽をやるのですが、瞬間芸術だから花火のようにドーンと打ち上げて、終わってしまうと録音しない限り何も残らない。音楽って結局、どのタイミングで、どの音色がどの強さで鳴っているかの連続なので。

:まだ表現手段を選びきれてないときは、私も映画や舞台を作っていました。演者として出たことも、衣装を担当したこともあります。

カメラが埋めてくれた自分と社会との間

塚本:なぜその中から写真を選ばれたのですか?

:カメラというフィルターを通して、社会と繋がれるのが面白かったんです。一眼レフをぶら下げていると写真を撮る人として認識されて、誰にでも取材できたり、様々なコミュニティに足を踏み込むことが許されるような。

塚本:社会との距離感や間を、カメラが詰めてくれるようなイメージですね。フィルムの銀塩カメラだと、現代のデジタルカメラのようにメモリーカードのデータを削除すれば良いわけでもなく、フィルム代や現像代もかかる。1枚1枚をとても大事に撮っていた時代にとにかくバシバシ撮るというのは、何か使命感のようなものがあったのですか?

:数をこなさないと質は上がらないという理由です。そのために露出を変えたり、縦横を変えたり色々なことを試しつつ撮影して、ベストな表現を探していました。

トリミングでその人らしさが失われる?

塚本:今はi Phoneでも撮影後に表情が変えられるようになり、何でも後から編集できるようになりました。それについてはどう思われますか?

:私も編集はしますし、それ自体は良いと思いますが、あまり編集せずに済む写真のほうが結果的に最終的な画力は上がりますね。音楽でいうと、自分の肺活量と楽器の演奏のみのアウトプットと、後からミキサーなどで調整したアウトプットが違うように。

塚本:それは全然違いますね。ワークショップで写真を撮る課題がありましたが、当初の狙いがわからなくなるので後からトリミングはNGと言われたことが、色々考えるきっかけになりました。当たり前のようにやっていたトリミングが出来ないのであれば、撮る瞬間に画角を決めなければいけないので。

:どういった範囲を写すか、つまり視野の範囲に、結構その人独自の視点が反映されるんです。どの程度物事の色や形に注力して、デザインや構造的に社会を捉えているかというところも。後で見直してトリミングをすると、どうしてもデザイン的になって、その人らしさが失われてしまうんですね。

感性を数値化することで生まれる広がり

塚本 :先ほどは感覚的に、琴線に触れたものをひたすら写真に収めていたと伺いましたが、それに対してミートでは写真を言語化、数定量化しているのは興味深いです。言語や直感を大事に活動されている楢さんにとって、言葉や数字ってどんなものですか?

:私は直感を大切にしていますが、数字が嫌いなわけではないんです。言語化や定量化をすることで多くの人に再現性が生まれるのは便利ですよね。ミートでやっていることをを写真心理学と名付ける前、人の感性や創造性を豊かにする写真ワークショップを沢山行っていましたが、その立て付けでは元々クリエイティブな世界が好きな人達以外には広がりづらいと感じていました。そんな時「感性や創造性は目に見えづらいから、そこにフレームを与えると商売になるかもね」と言ってくれた人がいたんです。じゃあフレームを作ろうと思い、現在の形になりました。
現状の写真心理学診断では100%の中で写真心理学診断の各項目、例えばデザインとストーリーがどんなバランスで成り立っているかを見ていて、どの写真が良いか・悪いかという評価はしていません。人がシャッターを押すことで写真が切り取るのは250分の1秒程度の一瞬の世界なので、多面的なその人のほんの一瞬の認知にすぎない。だからそこを推測して診断していて、絶対正しいという評価ではないんです。これを一つの物差しにして、感性や知性の世界へみんなでダイブするきっかけになれば幸いです。