間づくり研究所

2025.12.23

 大川内直子氏:対談【前編】~“間づくり”が人を自由にする。壁を超えたコマニーの本質と、働く場の進化論

間づくり研究所の所長である塚本直之が、文化人類学者である大川内直子さんと対談を行いました。文化人類学の手法を用いて企業の課題解決を行う大川内さんと共に、『働くこと』の本質に迫ります。

対談者プロフィール
  • プロフィール写真

    文化人類学者/株式会社アイデアファンド代表取締役

    大川内 直子

    Naoko Okawachi

    アイデアファンド代表取締役。東京大学教養学部卒。同大学大学院より修士号取得。専門分野は文化人類学、科学技術社会論。学術活動と並行して、ベンチャー企業の立ち上げ・運営や、米大手IT企業をクライアントとしたマーケットリサーチなどに携わる。大学院修了後、みずほ銀行入行。2018年、株式会社アイデアファンドを設立、文化人類学のビジネス応用を本格化。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)主任研究員、昭和池田記念財団顧問。著書に『アイデア資本主義 文化人類学者が読み解く資本主義のフロンティア』(実業之日本社)。

  • コマニーprof-1030×686

    間づくり研究所 所長

    塚本直之

    Naoyuki Tsukamoto

    COMANYが目指す 「関わるすべての人の幸福に貢献する経営」 を実現するた め、同社の経営にSDGsを実装したサステナビリティ経営を推進。 現在は、間 づくり研究所の所長として間づくりの浸透を推進している。 趣味はロードバイ クで、休日は山に向かって走るのが何よりの楽しみ。 最近は畑も始めた。

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    間づくり研究所 事務局長

    千葉倉司

    Kuraji Chiba

    コマニー株式会社 マーケティング推進部の部長にして、間づくり研究所の最終兵器。COMANYの間づくり理念を常に探求する間づくりの権化。

  • 有江晴花

    間づくり研究所 研究員

    有江晴花

    Haruka Arie

    COMANYの経営企画課にて商品企画や社内外のイベント企画に従事。特に社内の人と人との間づくりに奮闘している。プライベートでは小松の里山の築100年の古民家に住み、まちづくりを楽しんでいる。趣味は栗拾いや野草茶など自然の恵みを味わうこと。

アフリカへの興味から始まった文化人類学者の道

塚本直之(以下、塚本):私はコマニーの本社のある石川県小松市生まれ育ち、これまで製造、管理本部、経営企画と社内の様々な業務を経て、現在は開発に携わりながら会社を経営してきました。経営者としての使命は「キレイ事がまかり通る世界をつくること」です。このキレイ事とは、“人が働くことを通じ、自分の本当に生きたい人生を生きる”ということ。本来、働くことで組織や社会に貢献できるのは喜ばしいことのはずなのに、実際に働いている人達は楽しそうには見えないことが多いです。そこに強い違和感を感じ、この状況を変えたいと思ってきました。

大川内直子さん(以下、大川内):わかります。現在の社会は、働くことと生きることがきっぱりと分断されてしまっていますよね。私もその点に疑問を抱いています。

私は高校まで佐賀の田舎で育ち、東京大学に進学した当初はアフリカで動物の研究がしたいと思って理系に進んだのですが、解剖の授業がとても苦手で…他にアフリカに住める学問は無いかを探して、仕方なく文化人類学に進みました。

文化人類学は、長くアフリカを重要なフィールドとして研究してきた学問です。その起源は19世紀後半にまで遡り、20世紀初頭には今イメージされるような文化人類学、つまりフィールドワークを通じて異なる文化について研究する様式が確立しました。当時のステレオタイプで言うと、主にヨーロッパの白人男性研究者が、アフリカやメラネシア、南米など、いわゆる「未開」とされた地域に単身で赴き、およそ2年間現地に住み込んで調査を行っていました。現地語を習得し、その社会や文化に深く入り込みながら、部族社会や都市生活、働き方にいたるまで、人の営みを“フィールドワーク”という手法で観察・分析する。一言で言えば「人間を内から眺める学問」ですね。泥臭くて地味ですが、奥深いです。

実際には、修士課程に進んだ頃に大学の研究室にはアフリカ研究の教員がおらず、学会でもアフリカはもう十分調査し尽くされたという空気で、泣く泣くアフリカ研究は諦めることになるのですが…。その後、科学技術社会論のなかでも「ラボラトリー・スタディーズ」と呼ばれる、科学者をある種の社会集団として人類学的に研究する領域に進みました。

なぜ、Googleの本社が文化人類学者を求めたのか?

塚本:変化の激しい現代を生き抜くヒントが見つかるかもしれないと、文化人類学はビジネスの場でも近年脚光を浴びていますよね。私のような経営者にとっても、学ぶことが多い分野だと思います。

大川内:近年は文化人類学の手法を用いて、生活者の調査や組織文化の調査を行うことも一般的になってきましたね。学生時代は純粋な学問である文化人類学が、まさかこんな風に社会に求められて、仕事になるとは思ってもいませんでした。大学院時代にGoogleのアメリカ本社から依頼を受け、日本人の生活調査を行ったことがあるのですが、何でも情報をデータで分析して理解できそうな最先端の企業が、文化人類学のような泥臭い調査に価値を見出したことに、とても驚きました。

でも考えてみれば、アンケートや統計だけではわからないことが世の中には沢山ありますよね。人は「これが好き」「あれが欲しい」とは言うけれど、実際には言葉にしないまま何かを選び、行動している。その“言語化されない部分”を読み取るのが、ビジネスに期待される文化人類学の役割とも言えると思います。初期は海外のクライアント向けに日本人の調査を行うことが主でしたが、現在はその手法を用いて、日本企業の新規事業開発や改革支援も行っています。

調査の際は家庭訪問や通勤同行にはじまり、一緒にカフェで過ごすなどして、人々の普段通りの行動を観察します。生活の中でスマホや家電をどう使っているのかを確認し、時には話しながら一緒に料理を作って食べ、その家庭の子どもが泣けばあやすこともあります。日常生活に入り込み、寄り添いながら徹底的に観察を行います。

求められていたのは「壁」ではなく「間」だった

塚本:弊社はパーティションメーカーとして事業を展開してきましたが、私自身が経営に関わるようになった際、さらに価値を提供できる企業に昇華する必要があると感じていました。そこで、経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーのマネジメント塾に通う中で、「我々の使命(事業)は何か?」 という問いを突きつけられ、頭が真っ白になりました。会社は私が生まれた時からありましたし、親もずっと勤めていて、熟知しているつもりでした。「パーティションを作っている」と言えばそれまでですが、本当にそれだけか?と。

例えば、私は車が好きなのですが、お気に入りの車を「愛車」とは言いますが、「愛壁」「愛パーティション」なんて、誰も言いませんよね。お客様は壁を強く認識していないのに、それでも欲しいと言われて、年間300億円以上売れている。なぜお客様はパーティションを買ってくださるのか?私たちの事業の本質って何だろう?と考えたとき、実際に生み出している価値は「壁」ではなく、その先にある「間」——つまり、人がそこで何かをしたいという“意図を叶える空間”だと気づいたんです。

その後、「コマニーとは何か」を徹底的に色々な角度から見ていく中で出会ったのが、「間づくり」という言葉です。私たちが創り出しているのは、まさに「新たな価値ある間」。その言葉を表出できたことで、ようやく自分たちが生み出している価値が分かりました。

大川内:面白い。「ドリルの穴理論」の話に通じますね。電動ドリルを買う人は、電動ドリルが欲しいのではなく“穴”が欲しい。まさに、パーティションを買う人も“壁”が欲しいわけではなく、その壁がもたらす空間を求めていたのですね。

塚本:まさにそうです。私たちは「空間を仕切る壁」ではなく、「人がその空間でどう過ごすか」という“環境の選択肢”を作っている。行動経済学の山根承子さん曰く「人は90%以上の判断を環境の影響でしている」そうなので、「間づくり」が人々の行動にも大きく作用しているとも言えますね。