間づくり研究所

2024.12.23

間づくり研究会リポート~ORGATEC TOKYO 2024後編~

7月17日に行われた「間づくり研究会」では、5月末に開催されたオフィスおよびファシリティの国際専門展示会「ORGATEC TOKYO 2024」について共有されました。
3回目の出展となる今回は、「間づくり研究所」として体験型のブースを企画し、お客様の体験が研究そのものになるという展示を行いました。今回はその研究結果をご紹介します。

▶出展ブースについての詳細は、前編の記事でご紹介しています。
https://mazukuri.comany.co.jp/event/report006/

コマニーにとってのオルガテックとは?

私たちはオルガテックで、「ART」間づくりに関するアート表現を行い、「BUSINESS」間づくりをビジネスや事業につなげ、「CULTURE」間づくりを暮らしや文化にしていきたいという風に考えています。
そして「COMANY ART ON ORGATEC TOKYO」というテーマを設定し、私たちの考えをアート表現に乗せて伝えることを目指しています。 

展示のコンセプト

「光間 CO-GEN」は、お客様と私たちで光の間を彩る体験の中で、お客様にも能動的に参加していただくために「光」をモチーフとしました。
「光」とは、自ら光を発し働きかける「能動性」なのに対し、「目」とは、光がものに反射して私たちに届くことで見える「受動性」です。
光と目の関係性のように、お客様が能動的であることでブースの彩りが増えていき、それを私たちが受動することで新たな間づくりの視点を見つけ出す、そのような展示になりました。 

ブース体験の流れ

▶出展ブースについての詳細は、前編の記事でご紹介しています。
https://mazukuri.comany.co.jp/event/report006/

ブース全体図

受付をして入場列に並んでいる間に、リーフレットの「性格診断」に答えていただきます。 

入場後は「問いの間」へと進みます。性格診断で分かった自分のタイプ特性に従い、間づくりに関する問いが書かれた短冊を受け取ります。
タイプ特性は、「間づくり冒険家」や「間づくり哲学者」など8種類に分かれます。
短冊の問いも、タイプ特性に合わせて8種類用意されています。

短冊を受け取った後は「母屋」へ移動し、問いの答えとなる場所を探していただきます。
母屋には、団らんするようなスペースや1on1をするスペース、リラックスするスペースなど様々な空間があり、壁面には間にまつわる「言葉」が書かれています。

お客様には、問いの答えに当てはまると感じた場所で短冊を結んでいただきます。 お客様が結んでくださった短冊がちりばめられ、光と重なり、「光間 CO-GEN」が出来上がるといった展示です。

展示の狙い

展示の狙いについて、お客様とコマニー側のそれぞれで考えました。 


お客様 :体験を通じて、間づくりに対する新たな気付きを持ち帰っていただく。

お客様の普段の働き方と、ブースの様々な空間を比較しながら「これが間づくりなんじゃないか」 「間づくりってこういうことか」といった新たな気付きを持ち帰っていただきたいと考えました。

コマニー: お客様がどのような環境を好まれるのか、人との関係づくりに伴う空間の選択を研究する。
お客様が普段どのような働き方や考え方をしていて、どのような間づくりをしているのかを調査しました。また、私たちが想定したお客様の動きと実際の動きの違いを比較することで、今まで気づいていなかった新たな間づくりのアイディアを得ようと考えました。

結果を得るために設定した2つの問い

今回の展示では、お客様自身の考えの集約で研究結果を得られるよう、能動的に体験いただくための仕掛けとして2つの問いを用意しました。

【問1】 自分自身への問い(性格診断)

受付でお配りしたリーフレットで、性格診断の問いに答えていただきました。
こちらはユングの心理学診断を基に、身近なシーンの質問を通して8種類のタイプに分かれるようになっています。この回答から、自分が外交的か内向的か、そのうちの思考型、感情型、感覚型、直感型のどれに当てはまるのかが分かり、タイプ特性が判断できます。

【問2】短冊の問い(空間で答えを探す)

ブース体験のメインとなる、空間で答えを探す短冊の問いです。
短冊には、「アイディアが生まれそうな間を探してください」や「仲間との会話が弾みそうな間を探してください」など、生産性向上や知識創造に繋がるとされるナレッジマネジメントの「SECIモデル」を参考にして、間づくりに関する問いを8種類用意しました。
また母屋の中には、お客様が答えを選ぶきっかけとなるような様々な空間のバリエーションや、光、音、言葉などを要素として散りばめました。

私たちは普段の生活の中で、無意識に過ごす場所を選んでいます。 この問いでは、「どのような時に、どうしてその場所を選ぶのか」ということを考えるきっかけにしていただきました。

来場者数と参加者の属性

オルガテック全体の参加者:40,631人(13の国と地域から、163のブランドが出展)

コマニーブース来場者  :3,900人 

アンケート回答者    :1,552人(コマニーブース来場者のうち39,8%)

お客様の年齢層の割合に関しては、多い順に20代、30代、40代と続いており、若い層から順にご来場いただいたことが分かりました。
お客様の職種については、製造業に続き、デザイナー・プランナー、施工・内装業者が多いことが分かりました。 

【問1の結果】性格診断×アンケート結果

お客様の間づくりタイプですが、外交的な4タイプの合計が590人(38.3%)に対し、内向的な4タイプの合計は948人(61.6%)となり、内向的なタイプの方が多い結果となりました。
最も多いタイプは「間づくり冒険家」で内向感情型の人、最も少ないのは「間づくり哲学者」で内向思考型の人という結果になりました。

さらに参加者の間づくりタイプを「年代別」に見てみたところ、内向的なタイプの割合が最も高かったのは30代でした。一方で、外交的なタイプの割合が最も高かったのは50代以上でした。

来場者の間づくりタイプを感情型、感覚型、直感型、思考型の4つの分類で見ると、最も多いのは感情型の人、最も少ないのは思考型の人でした。

体験後のアンケートで調査した「働く をシフトさせるインスピレーションを得られましたか?」という質問については、このような結果となりました。
「多くのインスピレーションを得ることができた」と回答した人が24.5%、「何となく感じる事ができた」と回答した人は62.9%となりました。
2つを合計すると87.4%。つまり9割弱の方々は、何らかのインスピレーションを得られたということになります。

「働く をシフトさせるインスピレーションを得られましたか?」という質問について、間づくりタイプ別に見てみました。
間づくりエンターテイナーと間づくり発明家は、「多くのインスピレーションを得ることができた」の割合が全体の平均よりも5%以上高い結果となりました。
間づくり発明化は、「多くのインスピレーションを得ることができた」「何となく感じる事ができた」の合計の割合が最も高い結果となりました。 一方で間づくり哲学者は、「感じなかった」「わからなかった」の合計の割合が最も高い結果となりました。

「働く をシフトさせるインスピレーションを得られましたか?」という質問について、外交的なタイプと内交的なタイプに分けて見てみました。 「多くのインスピレーションを得ることができた」と回答した人の割合は、外交的なタイプの方が高いことが確認でき、内向的なタイプとは7.3パーセントも差があることが分かりました。

「働く をシフトさせるインスピレーションを得られましたか?」という質問について、感情型、感覚型、直感型、思考型の4つの分類で見てみました。 「多くのインスピレーションを得ることができた」と回答した人は、感情型のタイプが最も多い結果となりました。

「働く をシフトさせるインスピレーションを得られましたか?」という質問について、来場者がインスピレーションを得た要素を10種類に分類してみました。
このような分類によって、間づくりタイプごとに示唆を導き出せる可能性は見られたものの、今回の調査の中では明確な傾向までは得られずばらつきが見られました。

次に、「仕事をする際に、あなたにとって一番重要な要素は何ですか?」という質問について、間づくりタイプごとに見てみました。
割合が高い順に要素を並べると、全ての間づくりタイプにおいて要素間の順位は同様となりました。ただ、タイプごとに要素の構成比には多少変動が生じています。

例えば間づくり哲学者は、「好きな時に自分のペースで仕事ができる」が全体平均よりも5%以上高い一方で、「気心の知れている仕事仲間がいる」は全体平均よりも5%以上低い結果となりました。
間づくり発明家は、「仕事の仕方を自分でアレンジできる」が全体平均よりも5%以上高い一方で、「好きな時に自分のペースで仕事ができる」は全体の平均よりも5%以上低くなっています。

「仕事をする際に、あなたにとって一番重要な要素は何ですか?」という質問について、外交的なタイプと内交的なタイプに分けて見てみました。
こちらも要素間の順位は同様でしたが、構成比のバランスに着目すると差異が見られます。
例えば、外交的なタイプよりも内向的なタイプの方が、「好きな時に自分のペースで仕事ができる」「広々としていたり、どこでも仕事ができる」という要素で比較的多くの割合を占めています。
また、外交的なタイプの方が、「気心の知れている仕事仲間がいる」「仕事の仕方を自分でアレンジできる」という要素で比較的多くの割合を占めていることが分かります。

【問2の結果】どのような場所にどの短冊が集まったのか

今回、お客様には「短冊を結ぶ」という手間のかかる行動をしていただきましたが、結ばずに出て行かれる方はほとんど見受けられませんでした。ご来場いただいた約3,900人の皆様に結んでいただいたという想定で結果をお伝えします。

母屋の中には、短冊の問いの答えとなるような場所を想定して、様々な空間を用意しました。ここからは、短冊の4つの問いと空間の関係についての分析結果をご紹介します。

①「仲間との会話が弾みそうな間を探してください」

短冊が多かった場所は、1面~3面ほど壁があるセミオープンな場所で、照明は比較的明るくベンチやソファーがある場所が多く選ばれていました。この問いの結果についてはおおむね想定通りとなっています。

「仲間との距離が縮まりそうな間を探してください」

短冊が多かった場所は、元々想定していた1on1の場所と、部屋の隅に3面が壁で囲われたセミクローズの場所で、照明は少し薄暗い場所が選ばれていました。
また、想定していなかったセミクローズ(ストリングカーテン)の場所も選ばれていました。

上記の①と②の結果を重ねて見てみると、このような結果になります。 2つの問いには共通して「仲間とのコミュニケーション」が発生するため、団らんスペースや、リラックススペースなどカジュアルに会話ができそうな場所が選ばれています。
どちらも壁面近くの空間ではあるものの、会話を弾ませたい場合はオープンな空間、距離を縮めたい場合はセミクローズな空間が選ばれています。

「あなたの集中力が持続しそうな間を探してください」

短冊が多かった場所は、3面~4面を壁で囲まれているセミクローズからクローズの薄暗い場所でした。 ストリングカーテンのスペースは短冊が多いと想定していましたが、あまり選ばれていません。逆に、右下の部屋の隅が多く選ばれました。このスペースは3面を壁に囲われており、周りからの視線が遮られる場所になっています。

「アイディアが生まれそうな間を探してください」

短冊の多かった場所は、セミクローズ(ストリングカーテン)やリラックススペースに加え、部屋の隅や個室スペースも選ばれていました。

上記の③と④から分かったことは、「仲間との会話からアイディアが生まれる」と考える人と、「1人で集中することでアイディアが生まれる」と考える2パターンが存在するということです。そして、仲間とのアイディア出しにはオープンな明るい空間、1人でのアイディア出しにはセミクローズで狭い空間が選ばれていたことが分かりました。

結果からの気づき

■2つの問いについて

問いの仕掛けがあったことで、お客様に楽しみながら能動的に体験をしていただくことができました。「結ぶ」という行為は日本人にとって、七夕の短冊や絵馬など「自分の思いを残すための良いひと手間」というイメージが根付いています。多くのお客様の「結ぶ」というひと手間により、間づくりを可視化することができました。

■性格診断とアンケートについて

お客様のタイプ特性は、「感情型」が多く「思考型」は少なかったということが分かりました。このことから、アート表現によって感情が動かされ、インスピレーションを得た人が多かったのではないかと考察しています。

■短冊による研究結果について

単に過ごしやすい場所というだけでなく「相手とどのような関係を構築したいか」「その先に何を生み出したいか」で選ぶ場所が変化することが分かりました。
アイディアを生む間についても、チームで考える場合と個人で考える場合で、それぞれ空間の広さや照度、音など様々な要素が影響を与えていることが分かりました。 また、同じ短冊の問いかけであっても結ぶ場所は人それぞれで、私たちの想定外の場所を選択する方もたくさんいらっしゃるということが分かりました。

まとめ

今回の研究では、同じ空間でもそれぞれの性格によって感じ方に違いがあるということが分かりました。また、仕事内容によって過ごす空間や共に過ごす相手を選ぶなど、お客様の日常の中にも様々な「間づくり」があるのだという風に想像しました。

現代のオフィスに求められているものは、「ひと手間を加えること」だと考えます。まずは働く人の行動や心の動きを観察し、本当のニーズを引き出す。そして仕事内容や気分に合わせて様々な選択ができるように「ひと手間」を加え、居心地の良い「間」をつくっていく。その積み重ねが、働く人のWell-beingを向上させていくのではないかという風に考えています。

今、世の中には便利なものがたくさん溢れているにも関わらず、解決していない課題がたくさんあります。ということは、もしかすると「もの」ではなく、「目に見えないところ」に解決するヒントがあるのではないかと思いませんか?私たちはそれこそが「間づくり」なのだと信じ、これからも間づくりを広めてまいります。