間づくり研究所

2024.06.07

楢侑子氏:対談【後編】~写真家、楢侑子と共に考えるそれぞれの間づくり~

間づくり研究所のMA-starである塚本健太が、写真心理学を用いた対話プログラム「miit(ミート)」の開発者である楢侑子さんと「間づくり」をテーマに対談を行いました。

対談者プロフィール
  • 楢侑子

    株式会社ナムフォト 代表取締役

    楢侑子

    Yuko Nara

    多摩美術大学で写真を始めて以来、写真家として活動を続ける。第28回写真新世紀入選。またmixi、TOKYO FM、エイベックス・マーケティングなどでメディアの企画や編集に従事する他、新企画立ち上げなどを担当。2010年よりコミュニティデザイナーとして「まちづくり」に関わるように。 写真ワークショップを2000名以上に提供して2万3000枚以上の写真をレビューする中で、写真から撮影者の認知を読み解く「写真心理学」という独自のフレームワークが誕生。2020年12月に研修サービス「miit」をリリース。2022年より大学で心理学を体系的に学び、写真心理学を研究しながら事業を行っている。

  • 健太さん

    間づくり研究所 MA-star

    塚本健太

    Kenta Tsukamoto

    1978年石川県小松市にコマニー株式会社の創業者塚本信吉の孫として生を受け、2019年6月に3代目社長に就任。世の中の「間」違いや「間」が悪いところを「間づくり」していけば、すべての生命が光り輝く世界が実現すると信じてやまない。趣味はサックスとF1観戦、子供とラジコンをして遊ぶこと。

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    間づくり研究所 研究員

    角拓馬

    Takuma Kaku

    入社して製造現場一筋15年。現場の働きやすさを間づくりを通して追及し、製造はメーカーの要という事を使命に取り組むと同時にお客様に良い製品をお届けできるよう心掛けております。休日は野球観戦と子供と遊ぶことがなにより大切な時間です。

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    間づくり研究所 研究員

    齋藤理沙

    Risa Saitou

    2018年入社。製造加工部加工2課に配属され、EUP組立作業から始まり、今ではNC複合機のデータ作成業務を担当。 現在製造部の間づくり研究員として、工場におけるコミュニケーションツールの間づくりをチームメンバーと共に進めています。 最近ハマっている事は、休日に子供とゲームをして遊ぶこと。

写真を通じて得た気づきを日常に活かす

塚本:製造部門の二人は実際に課題に取り組まれて、どう感じました?

:普段写真を撮らないので、自由に撮る課題は本当に迷いました。後から1枚の写真に対して様々な方にフィードバックをもらうことで、また違った視点で見ることが出来るようになりました。今まで苦手だった人の違う一面を見れたりと、日常生活でも物事を違う角度から見られるようになりました。

:写真を普段から意識的に撮っていない方だと、自分の知覚認知を客観的に見直す経験をあまりしていないかもしれませんね。何を撮れば自分を表現できるのか考えることで、まず1つスイッチが入ります。そこで思考が働くし、これかなと出した写真に対して色々な視点から質問が飛んでくることで、自分の認知が深まり、捉え方のバリエーションが増えていく。まさしく狙い通りです!

齋藤:私は参加したことで自分らしさとは何か、もしかしたら人生で初めて考えたかもしれません。ワークショップ後は自分を客観視することに興味がわいて、自分が大切にしていることをより大切に出来るようになりました。また、生活の中で単純に写真を撮る機会が増えました。皆さんの写真を見せてもらい、反省もありましたが楽しんでできました。

:いいですね。自分を通して認識していて見ている世界は1つですが、他の人にもその人の人生や物の捉え方があります。どちらも素晴らしくて、お互いに影響しあって、混ざり合えたら最高です。普通に生きていると、内観や内省をする機会はあまりないかもしれませんが、自分を理解できないと他者理解もできないし、クリエイティブなアウトプットも出せないので、そこに少しでも写真を通して向き合ってもらえたら嬉しいです。

塚本:コマニーでは1200人のメンバーが働いてくれているのですが、いけないと思いつつ時々ひとまとめに見てしまうことがあります。でも、今回のワークショップを通じて、その1人1人の人生や生活をよりリアルに、熱を持って感じることが出来た気がします。自分も人も理解できる不思議なプロジェクトでした。結果、間としては人との繋がり方が変わりますよね。

間づくりを第三者に説明するとしたら?

塚本:間づくりとは何か、第三者に聞かれたらどう説明しますか?

:僕は対話こそ新しいものを生み出す鍵だと思っているので、人と人との間を取り継ぐことと答えます。コミュニケーションをとる上で自分や相手の思いを引き出せるよう、その空間の雰囲気や建物を形づくっているとも言えます。

齋藤:私はその空間にいる人たちがリラックスできて、アイディアが生まれたり、コミュニケーションが取りやすくなるなど、感性が良い方向に働くような空間を間づくりと答えます。そういう空間をつくりたいですね。

何にもないところからはじまる間づくり

塚本:何にもない原っぱに、理想の間を作ってくださいと言われたらどうしますか?

:パーテーションなどの可変性のある家具が結構好きなんです。柱が2つあって、その間に布をかけたらカーテンになるとか。そういうパーツを自分で沢山作って、籠りたいと思ったら布で囲ったり、その時の気分に応じて変化させられる空間をつくります。

齋藤:工場だと皆で力を合わせて頑張ることが多いので、仕事場にコミュニケーションが取れる場所を作ります。また、Zoom会議もできる1人用のスペースも欲しいですね。プライベートでは、遊び場として子供が危ないとか駄目と言われない空間をつくりたいです。何も置かずに皆がしたいことを、自由奔放にできる場所。

:コミュニケーションがとりやすいのは第一ですね。僕はほどよく狭いほうが話しやすいので、コンパクトな空間を作ります。初めて東京本社のオフィスに来たのですが、それぞれオープンスペースで楽な姿勢でデスクワークをしていて、自由に生き生きと働ける良い空間だなと感じました。

塚本:結局間づくりって、人や物との関係性ですよね。よく「相手の立場で物事を考えよう」と言いますが、ワークショップでそれぞれの撮影した写真を共有し合うことで、強制的に撮影者の視点に立たされる。そういう意味では文字だと広がりが強く、それぞれの頭の中のイメージに差が出てしまうし、動画だと情報量が多すぎる。写真は距離感が絶妙です。

:動画だと音や時間軸、カメラワークなど変数が多いので、結局その人の伝えたいことがあやふやになりやすいですね。写真は媒体としてすごくシンプルだからこそ、一瞬で伝わります。

塚本:原始的ながら信用性がありますね。僕らがパーテーションに特化している理由も近いかもしれません。間づくりも限られたプロのためではなく、写真のように全ての人が気軽に扱えるよう、要素を削って手軽にしていく必要がありますね。

:先ほど工場の中でリラックスして人と繋がる空間や、ゼロ地点に戻れる空間が欲しいというお話がありましたが、そういった調整はしやすいですね。一度設置されたものを動かすのに他者の目が気になる、遠慮してしまうこともあるかもしれません。その意識が取り払われて、協力し合いながらも、皆それぞれの気分で可変性を持たせられると、風が吹くかもしれません。

塚本:風に戻ってきました。確かに組織の風土を「風通しがいい」と表現しますね。オフィスに風を吹かせる。工場のように動かせないことが前提のものでも、パーテーションを使うことでまた違った空間を作ることができる。可変的で色々な風を吹かせられるのがコマニーの良さかもしれません。

写真の力で命の輝きを取り戻す

塚本:社名であるナムフォトの由来について、お伺いできますか?

:ナムフォトは「南無阿弥陀仏」の「南無」から来ています。「南無」には「心の拠り所として生きる」という意味があるので、ナムフォトだと「写真を心の拠り所として生きる」という意味になります。私の人生の一大事として、32歳で乳がんになった体験があります。幸いがんは命に差し障るものではありませんでしたが、自分自身の死をこれまで一番強くイメージさせる出来事でした。初めは受け入れられず、半分遺影のつもりで自分の写真を撮ってもらったのですが、その写真の中の自分がとても笑顔で生命力に溢れていたことで、元気が出たんです。

:もう1つ、インスタグラムのアカウントで自分のために1日1枚写真をアップすることで、好きなものにフォーカス出来るようになりました。癌でもご飯は美味しいし、景色は綺麗だし、鳩は可愛い。癌にアイデンティティを乗っ取られていた状態から、自分を取り戻しました。こんな風に人の人生に寄り添うツールとしての写真の価値を広めたいと、起業を考えました。今は「写真の力で、アイが巡るセカイをつくろう。」をビジョンに活動しています。

塚本:今後ご自身の活動を通じて、どんな社会や世界を生み出したいですか?

:「創造性、自律、多様性」の3つのキーワードを大切にしています。人は自分の創造性と繋がっていれば元気だし、自律していれば協力し合う関係も作れる。色々な人とそんな世界を作りたいです。また、写真心理学をもっと多くの方々に広めたいですね。今はより信憑性の高い根っこの生えた学問にするために、大学で心理学を学びながら、学術的な研究へ繋げるために日夜努力中です。将来的に心理学検査のロールシャッハテストや箱庭療法など、そういったアセスメントや療法の一つとして写真が使えるのでは、と考えています。

塚本:スマホを含めると55億人、人口の70%と人類史上最大の人がカメラを持ち歩いているので、可能性はありそうですね。今日は間づくりを写真のように誰にでも使えるツールとしてどれだけ民主化するかが、私達の使命かなとヒントをいただけました。写真の世界も、もっと探求していきたいですね。

:今回皆さんのお話を聞けたことで、改めてミートの素晴らしさを実感できてとても感謝しています。私は1人1人が創造的な世界を作るために、できることを頑張ります。それが私の考える豊かな暮らしに繋がっていくと思っています。